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2024年7月18日
着替え時間は労働時間か
労働基準法上、労働時間に関する詳細な定義はありません。
判例によると労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」であり、
「労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであり、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。」 と示されています。
上記の点から労働のために必要な準備である着替えを事業場内において行うよう使用者から義務付けられている、もしくは余儀なくされている場合には着替え時間は労働時間と判断されます。
着替え時間を含む労働時間を把握するために、始業時にはタイムカードを打刻した後に着替え、終業時には着替えてからタイムカードを打刻するようにしましょう。
しかし、上記の方法では更衣中の過度な雑談等の時間も労働時間として計上されてしまうおそれがあります。また、就業場所と更衣室とタイムカード打刻の場所により、打刻と着替えの順序をまもることが困難な場合も少なくありません。
イケア・ジャパンにおいて2006年の開業以来、着替え時間の賃金支払がなかったことが発覚しました。イケア・ジャパンはこれを事実であると認めたうえで2023年9月より「一律で」始業時5分、終業時5分の計10分の着替え時間を労働時間に含めることとしました。
みなし労働時間のようなものですが、労働時間のみなしが認められている「事業場外労働みなし」や「裁量労働」には当たりません。実質的には着替え時間に対する固定残業代のような制度と考えられます。
固定残業代制度では、みなし残業時間を超える残業を行った場合には、超過した残業代を別途支払う必要があります。上記のケースにおいても同様で、実際の着替え時間が10分を超える場合にはこれの把握と、超過分の賃金支払義務が発生すると考えるべきでしょう。
しかしながら、残業時間とは異なり、着替え時間は人により大きな差異が生まれるものではありません。実際にかかる平均的な着替え時間から、一律で労働時間に加算する着替え時間を算定し、計上すれば大きな問題にはなりにくいと考えられます。
ただし、身体障害や一時的な負傷等が原因で、算定した着替え時間内に着替えをすることが困難な労働者については実際の着替え時間で考える等の配慮が必要であると考えられます。
なお、更衣場所が自宅でも事業場でも構わないこととしている場合には、当該着替え時間は労働時間ではないと判断されます。指定の制服・作業服での通勤に問題がない場合には、自宅から着用してもよい旨を規則等に規定し周知することで、着替え時間を労働時間ではないとみなすことができます。

社会保険労務士法人ユアサイド
綿引 文生(わたびき ふみお)
早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、平成19年に社会保険労務士試験に合格。平成21年社会保険労務士法人ユアサイドに入社。令和3年11月パートナー社員就任。派遣会社を含む幅広い業種の企業をこれまでに100社以上担当。人の強みを生かす企業経営の一助となるとの想いで、日々労務相談や手続きに対応している。