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2025年10月29日
試用期間中の解雇の取扱いについて
今回は試用期間中の解雇について取り上げます。また、会社に求められる対応は何かを考えていきます。
【解雇とは】
解雇とは「使用者(会社)の一方的な意思表示によって労働者との雇用契約を解消すること」をいいます。労働契約法に「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定められています。分解すると解雇には「客観的に合理的な理由」で、かつそれが「社会通念上相当であると認めら」れる理由が必要ということです。
【試用期間とは】
試用期間とは、会社が労働者を正式に本採用する前に、適性・能力・勤務態度などを見極めるための期間のことで、法律上定義があるわけではなく、会社が試用期間を定めることも義務ではありません。しかし、試用期間を設定している会社は86.9%で、少なくない印象を受けます※労働政策研究・研修機構が平成24年10月に調査した「従業員の採用と退職に関する調査」による。
試用期間でも労働契約自体はすでに成立しており、労働者は労働者としての地位を持つことになります。
【試用期間と解雇】
試用期間中の解雇は認められやすいのでしょうか。結論、通常の解雇よりは認められやすいですが、試用期間=解雇はいくらでも可能、ではありません。
試用期間に関する解雇を扱った裁判に、三菱樹脂事件(最大判昭48・12・12)があります。会社(被告)が大卒予定者を試用採用したものの、原告側が過去に学生運動をしていたことが判明(原告は虚偽の申告をしていました)、それを理由に被告が本採用を拒否したものです。控訴や上告を経て、最終的に和解が成立し原告は職場復帰を果たしました。
ここでは最高裁は以下のように示しています。これが現在の基本枠組みを形成しています。
➀試用期間付き契約は「解約権留保付労働契約」である
→「会社に解約権が留保された労働契約」のことです。
➁会社に広い裁量があるが、解約権濫用は無効
→試用期間の目的は「労働者の適格性や能力を見極める」ため会社には通常の解雇よりも広い判断余地が認められますが、その裁量が無制限に認められるわけではありません。採用された労働者が本採用されることを期待して、他企業への就職の機会と可能性を放棄している事情に鑑みれば、合理的な理由が存在し社会通念上相当として認められなければ会社が解約権を濫用することは無効となると示しています。
➂「採用当初予期できなかった著しい不適格性」がある場合に限り有効
→採用時の面接・書類・一般的な観察ではわからなかったことが、職務遂行や職場秩序を根本から妨げるレベルの不適格性であり、「解雇に値するほど重大」であることが必要です。例えば、単なる学歴詐称だけにおいても、面接時に見抜けなかった会社側のミスとして判断されてしまう可能性もありますし、学歴詐称が業務遂行において著しく影響しない場合においては、解雇無効と判断される恐れがあります。また、業務遂行が遅れていても、それだけで解雇とすることができず、むしろ試用期間中だからこその丁寧な指導をすることが重要であり、これを会社が怠ると解雇無効のリスクは高くなると言えるでしょう。
【最後に】
上記の通り、試用期間での解雇であっても、労使紛争の結果、解雇が無効になることはあります。解雇無効となった場合、ずっと雇用関係が継続したことになり、いわゆるバックペイが発生するといったリスクがあります。
試用期間において「合わない」となった場合、会社側としては粘り強く指導や改善の機会を与え、それらの記録等をしっかり行うことが重要です。そのうえで、それを材料にし、まず解雇という選択をするのではなく、できるだけ退職勧奨のような労働者との合意の上での契約解消の道を探すことがリスク減らすことに繋がり、結果として双方に良い結果となるように思います。そのうえで他に手がない場合には、試用期間が終わる前に解雇を行うことを検討することが良いと思われます。
社会保険労務士法人ユアサイド
綿引 文生(わたびき ふみお)
早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、平成19年に社会保険労務士試験に合格。平成21年社会保険労務士法人ユアサイドに入社。令和3年11月パートナー社員就任。派遣会社を含む幅広い業種の企業をこれまでに100社以上担当。人の強みを生かす企業経営の一助となるとの想いで、日々労務相談や手続きに対応している。