HuApp MEDIA HR業界のお役立ち情報を発信中 「シフト制」派遣スタッフの適切な雇用管理

「シフト制」派遣スタッフの適切な雇用管理

派遣先の職種が販売やサービス業、看護師などである場合、時間や曜日を交代しながら働くシフト制を取り入れているケースが多いかと思います。今回は、派遣スタッフがシフト制で働く場合の雇用管理についての留意点を確認していきます。

 

1.「シフト制」労働契約の締結にあたっての留意点

労働条件をあいまいにしたまま労働契約を締結することは、労使間のトラブルの原因となるため、トラブルを未然に防止する観点から、労働基準法においては、使用者(派遣元会社)は労働契約の締結に際し、労働者(派遣スタッフ)に対して以下の労働条件を書面等により明示しなければなりません。

絶対的明示事項 相対的明示事項
書面(※)で交付しなければならない事項
(ただし昇給に関する事項を除く)① 契約契約の期間

② 契約期間の定めがある契約を更新する場合の基準

③ 就業場所、従事する業務

始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、就業時転換

⑤ 賃金の決定・計算・支払の方法、賃金の締切り・支払の時期、昇給

⑥ 退職(解雇の事由を含む)

 

① 退職手当

② 臨時に支払われる賃金(賞与など)

③ 労働者に負担させる食費、作業用品等

④ 安全および衛生

⑤ 職業訓練

⑥ 災害補償および業務外の傷病扶助

⑦ 表彰および制裁

⑧ 休職

(※)労働者が希望した場合は、電子メールの送信等電子的方法で明示することができます。

絶対的明示事項でも特に問題となりやすい「始業・就業時刻」や「休日」に関する事項については、以下の点に注意する必要があります。

(1)「始業・就業時刻、休日」
労働者派遣契約(個別契約)では、始業・終業時刻を単に「勤務シフトによる」と記載するのでは足りず、勤務するパターン(始業及び終業時刻)をすべて記載する必要があります。なお、一部労働局では、派遣契約期間の最初の1か月分のシフト表を労働条件通知書とあわせて配布し、2か月目以降のシフトについては、適切な時期にシフト表を交付するといった対応を認めているケースもありますが、原則は労働契約締結時に、派遣契約期間中すべてのシフトが決定されている必要があります。また、休憩時間は時刻を特定(例12:00~13:00)して記載することが望ましいとされています。

(2)シフトの変更の手続き
基本的に、一旦シフトが確定された後に当該シフト上の労働日や労働時間等を変更することは、労働条件の変更に該当します。労働契約法第8条では、「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。」とされており、確定した労働日、労働時間等の変更は、派遣元・派遣先会社は連携を取り、派遣スタッフと合意した上で行ってください。シフト変更が円滑にできるようにするために、シフトの変更のルールについては、派遣先会社または派遣スタッフの都合で確定したシフト表などにおける労働日、労働時間等を変更する場合の期限や手続きを確認しておくことが必要です。

 

2.「シフト制」労働者を就労させる際の留意点

(1)労働時間、休憩
労働時間の上限は原則1日8時間、1週40時間であり、この上限を超えて働かせる場合には36協定(時間外・休日労働に関する協定届)を締結し、労働基準監督署への届出が必要です。また、1日の労働時間が6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を労働時間の途中で与えなければなりません。なお、36協定の締結、届出義務は派遣元会社にありますが、協定を遵守して時間外、休日労働を管理する義務は派遣先会社になります。

(2)年次有給休暇
雇入れ日から起算して6か月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤したときは、法定の日数の年次有給休暇が発生します。雇用契約期間が6か月未満であっても契約が更新され6か月以上に及んでいる場合には、6か月継続勤務の要件を満たすことになります。また、所定労働日数が少ない派遣スタッフに対しても労働日数に応じた日数分の年次有給休暇を付与しなければなりません。

(3)休業
労働基準法においては、「使用者は、使用者の責に帰すべき事由により労働者を休業させた場合、当該休業期間中、当該労働者に対し、平均賃金の6割以上の休業手当を支払わなければならない」とされています。これは、労働者が使用者の責に帰すべき事由によって就業できなかった場合に使用者に休業手当の支払いを義務付けることにより、労働者の生活を保護することを目的としたものです。よって、既に確定された労働日について派遣先会社の責に帰すべき事由により、休業させた場合には、休業手当の支払いが必要となります。「使用者の帰すべき事由」は、使用者の故意や過失に限定されず、使用者側に起因する経営、管理上の障害なども含まれます。ただし、不可抗力による場合を除きますが、休業を回避するための具体的努力を最大限尽くしていることが必要です。なお、休業手当は賃金の扱いとなるため派遣元会社に支払い義務が生じます。

(4)安全・衛生の確保
労働安全衛生法に基づく安全衛生教育や健康診断・ストレスチェックの実施などの義務はシフト制労働者に対しても同様に適用されます。なお、一般健康診断、ストレスチェックの実施義務は派遣元責任にありますが、有害な業務に係る健康診断は派遣先会社にあります。

 

シフト制で働く派遣スタッフについては、固定時間制とは異なり、契約締結時のシフト決定やシフト変更の手続きなどをあらかじめ定めておく必要があります。事前に派遣先会社とルールを取り決めた上で、派遣スタッフへルールを周知してトラブルを防止しましょう。

 

 

 

社会保険労務士法人ユアサイド

綿引 文生(わたびき ふみお)

早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、平成19年に社会保険労務士試験に合格。平成21年社会保険労務士法人ユアサイドに入社。令和3年11月パートナー社員就任。派遣会社を含む幅広い業種の企業をこれまでに100社以上担当。人の強みを生かす企業経営の一助となるとの想いで、日々労務相談や手続きに対応している。

記事一覧へ