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2023年4月3日

デジタル給与解禁に向けて労働者が知っておくべきQ&A

令和4年11月28日に公布された「労働基準法施行規則の一部を改正する省令」において、令和5年4月1日より使用者が一定の手続きを行なうことによって、労働者の賃金を従来の銀行口座振り込み、証券総合口座への振込、現金支払に加え、第2種資金移動業を営む指定資金移動業者(○○ペイ、など)が一定の要件を満たし、その上厚生労働大臣の指定を受けることによって、労働者が指定する指定資金移動業者の口座への資金移動による賃金支払が可能となります。

そこで今回は、これから解禁されるデジタル給与にまつわるQ&Aを中心に、仕組みやポイントを解説していきます。

 

Q1 デジタル給与の流れを教えてください。

まず、指定資金移動業者が厚生労働大臣に指定申請を行なうことになります。4月1日に解禁されたからといって、すぐに対応できるわけではありません。その申請ののち、厚生労働省内にて審査を行ないます。この審査には多少時間がかかると思われます(数カ月程度)。指定が完了した場合において、各会社でデジタル払を行なう場合には、労使協定を締結します。労使協定締結後、労働者は使用者に申し出、同意書に必要事項を記入することにより賃金を指定資金移動業者の口座で受け取ることができます。

 

Q2 同意書とはどのようなものでしょうか。

厚生労働省のホームページに「指定資金移動業者口座への賃金支払に関する同意書」と題して詳細が載っておりますので参考にしてみてください。主に下記の事項を記載する必要があります。

➀口座振込を希望する賃金の範囲・金額
ア.定期賃金 イ.賞与 ウ.退職金 それぞれについて金額を設定します。指定資金移動業者が設定している口座残高上限額(100 万円以下)及び指定資金移動業者が1日当たりの払出上限額を設定している場合には当該額以下に設定する必要があることに留意が必要です。

②指定資金移動業者名

③資金移動サービスの名称

➃指定資金移動業者口座の口座番号(アカウントID)および名義人

➄開始希望時期

⑥代替口座として指定する銀行口座または証券総合口座の情報

上限額の100万円を超えてしまった場合や、指定資金移動業者が万が一破綻してしまった場合において保証機関から弁済を受ける場合に使用します。

 

Q3 デジタル給与は強制になるのでしょうか。

任意となっておりますので希望した場合に利用することができます。また、会社側としても労使協定を結ぶことが前提となっており、労働者が希望しても会社側は必ずしも対応しなくてはいけない義務は無いため、注意が必要です。

 

Q4 デジタル給与の口座では、上限額があるのでしょうか。

デジタル給与では、上限額が100万円に定められています。口座残高上限額を100万円以下に設定又は100万円を超えた場合は、超えた額が別の口座に送金されるようになっています。その趣旨としてのデジタル給与の本来の目的が「貯金」ではなく各支払機関への「支払」「送金」のためであることに留意が必要です。つまり、通常の銀行口座振り込みから指定資金移動業者へ今までは個人で対応していた手続きの簡略化とも考えることができます。また、口座への資金移動が1円単位でできます。さらに、口座残高の現金化も可能で月1回は手数料がかかりません。

 

Q5 指定資金移動業者は自分で決められますか。現在支払いに使用している業者があるのですが。

厚生労働大臣が指定する指定資金移動業者に限られてしまうため、制限があります。

 

Q6 指定資金移動業者が倒産等してしまった場合の保証はあるのでしょうか。

その時点での残高が保証される仕組みとなっています。しかし対応方法は指定資金移動業者により異なるため予め確認しておく必要があります。

 

Q7 メリットとして考えられるものにはどのようなものがありますか。

外回りや出張の多い労働者は、経費精算としてその使用した金額のみデジタル払を使用できる、といった方法も考えられます。そうすることによって通常労働した賃金と、経費精算した金額を別々で管理することができるからです。また、他にも指定資金移動業者にはよりますが、利用するごとになにかしらのポイントが加算されたりすることによって、お得に使用できるといった利点もあります。

 

Q8 使用してみたいのですが少し不安です。今の時点で考えられるデメリットはありますか。

電子決済に未対応なものに対し現金化したり、銀行口座への振込といった対応をしなくてはならない可能性があります。また、指定資金移動業者への振込金額の上限が100万円と決まっているため、大金の送金には適さない面もあります。

 

Q9 アカウントの有効期限はいつまででしょうか。

最後に口座残高が変動した日から少なくとも10年間は口座残高が有効であることが要件となっています。10年間は申し出に伴い払い戻しも可能です。

 

デジタル給与は、これから解禁、利用されていくものなので実際に使用してみないと分からないところではあります。しかし、デジタル化がここまで進んでいる今の時代において、意外と遅すぎた対策なのかもしれません。最近では現金を持ち歩かず、クレジットカードやICカードを使用して買い物を済ますことが大いに増えたため、これを機に利用してみるのもいいのかもしれませんね。しかし、A1でも述べたように審査に数カ月はかかるため、今すぐに利用できるわけではないので、今後の動向にも注目し、検討していく余地はありそうです。

 

 

 

社会保険労務士法人ユアサイド

綿引 文生(わたびき ふみお)

早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、平成19年に社会保険労務士試験に合格。平成21年社会保険労務士法人ユアサイドに入社。令和3年11月パートナー社員就任。派遣会社を含む幅広い業種の企業をこれまでに100社以上担当。人の強みを生かす企業経営の一助となるとの想いで、日々労務相談や手続きに対応している。

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