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2023年8月24日

労働基準監督署臨検について

労働基準監督署が労働基準法等に基づいて企業を調査することを臨検(臨検監督)と呼びます。企業側は原則としてこの臨検を拒否する事が出来ません。令和3年定期監督等実施状況・法違反状況より定期監督等実施事業場数として約12万件の事業場で実施され、そのうち違反率が68.2%となっております。今回は臨検が行われる際の流れ等イメージを持って頂きつつ、どのような内容に関して指摘がされやすいのか等を簡潔にまとめました。

 

労働基準監督署の臨検は、主に労働基準監督署の年間計画から選定される「定期監督」、労働に関する重大な災害が発生した際に行われる「災害時監督」、労働者からの申告によって行われる「申告監督」、是正勧告があった際に行われる「再監督」の4つがあります。

今回は一般的な「定期監督」について説明させて頂きます。臨検のおおまかな流れは下記のようになります。

 

  1. 臨検を実施する。(原則予告はないが、予告される場合がある。)
  2. 法令違反等が発見された場合は、違反事項への指導・勧告。
  3. 指摘された内容を改善後、是正報告書を労働基準監督署に提出する。

 

臨検をした中で、違反等が発見された場合に違反の度合いにより指導内容がそれぞれ定められており、主に下記の3点があげられます。

 

  • 指導票の交付:法令違反ではないが改善の必要があると判断された場合に交付される。
  • 是正勧告書の交付:法令違反があった場合に交付される。
  • 使用停止等命令書の交付:施設や設備の不備や不具合で労働者に緊迫した危険があり、

緊急を要すると判断された場合に交付される。

 

上記のa・bは、行政指導となっている為、法的な強制力はなく、是正する義務もありません。しかし、指摘されているにも関わらずそれを無視して是正報告書の提出を怠ったり、繰り返し是正しない場合や、あまりにも悪質だと判断される場合には司法処分(送検)が実施される可能性もあります。

c.は、行政指導ではなく行政処分となりますので、当然に法的強制力があり、命令に従わない場合には6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金という罰則もあります。その為、a~cの何かしらの交付をされた場合には、速やかに対応しなければなりません。

また、臨検の際にどのような内容に関して指摘されやすいかというところですが、厚生労働省労働基準局が発表している令和3年定期監督等実施状況・法違反状況よると以下の通りになります。

 

  1. 労働時間
  2. 割増賃金
  3. 賃金台帳
  4. 労働条件の明示
  5. 年次有給休暇
  6. 就業規則

 

上記の内容は定期監督等実施状況・法違反状況の中でも特に多かったものを抜粋しております。しっかりと対応しているつもりでも見落としやすい部分になります。

5.の年次有給休暇は2019年4月から年10日以上付与される労働者に関しては年5日取得する義務が発生しますので、法改正で変更になった事項に関しましても注意が必要です。

また、労働安全衛生法関係では、年1回以上必ず行わなくてはならない健康診断や常時50人以上の企業であれば毎年1回ストレスチェックの実施が義務付けられております。健康診断に関しては実施義務を怠ると6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる可能性もありますので、計画的な実施をお勧めいたします。

 

また、臨検の際、派遣先に直接雇用の短時間労働者や有期労働者がいる場合、派遣先の正社員と短時間労働者または有期労働者とで労働条件の不合理な相違がないかどうかの情報収集が実施されます。その相違内容が不合理かどうかは臨検時の行政指導の対象ではありません。しかし、その情報は担当している都道府県労働局雇用環境・均等部に提供され正社員と短時間労働者または有期労働者とで労働条件の不合理な相違があった場合には行政指導が実施される場合がありますのでご注意下さい。

 

【まとめ】

労働基準法は最低基準を設けて労働者を保護すること、労働安全衛生法は労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的として定められた法律です。このことを念頭に置いてより良い職場環境づくりを心掛けて頂きつつ今回ご説明した臨検にあたり指摘されやすい項目等も参考にして頂き、行政指導・行政処分を受けない基礎作りをお勧めいたします。

 

 

 

社会保険労務士法人ユアサイド

綿引 文生(わたびき ふみお)

早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、平成19年に社会保険労務士試験に合格。平成21年社会保険労務士法人ユアサイドに入社。令和3年11月パートナー社員就任。派遣会社を含む幅広い業種の企業をこれまでに100社以上担当。人の強みを生かす企業経営の一助となるとの想いで、日々労務相談や手続きに対応している。

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