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派遣労働者のための秘密保持契約

秘密保持契約とは相手方に開示する自社の秘密情報について、他人に開示することを禁止したい・秘密を保持してもらいたい場合に締結する契約のことで、企業相手に締結することもあれば、企業と労働者との間で締結することもあります。

万が一締結せず、情報が漏えいし損害を被ってしまった場合、手を打つことが難しくなるため、情報のやり取りが行われる前に締結することが一般的です。

秘密保持契約は、企業に直接雇用されている労働者は、勤務先の企業でその指揮命令の下、秘密情報を扱うことになるため、当然に勤務先の企業とこれを締結しますが、派遣労働者の場合は雇用と指揮命令が分離している関係で、事情が複雑です。では、一体どのような仕組みとなっているのでしょうか。

 

派遣労働者は、派遣元と雇用関係にあることから、派遣元に対して、雇用契約に基づく(派遣先の情報の取扱を含む)秘密保持義務を負います。その一方で、派遣先とは直接的な雇用関係にないことから、派遣先に対しては、雇用契約上の秘密保持義務を負ってはいないと言えます。

このため、派遣労働者が派遣先の秘密を漏えいし、それによって派遣先に損害が生じても、派遣先は当該派遣労働者に対し、契約関係に基づく損害賠償責任を直接追及することはできないのです。

この場合は、派遣先が派遣契約を締結する相手である派遣元に対して損害賠償責任を追及することができますから、これを可能にするために派遣先は派遣元との間で秘密保持契約を締結するのです。

こういった関係から、派遣先が派遣労働者との間に秘密保持契約を締結しても、実際に狙った効力を得ることはできない…というわけです。

 

なお、派遣元が派遣労働者と秘密保持契約を交わすことを念頭に置けば、あらかじめ就業規則に「守秘義務」や「秘密保持」の規定を定め、さらに「服務事項・禁止事項」や「懲戒基準」の条項において、秘密保持規定の遵守を求めたり、違反したりした場合の罰則及び損害賠償義務を書かねばなりません。

労働契約法第12条では、「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」と記されています。つまり就業規則にこれらの規定を定めず、対労働者との秘密保持契約のみを締結してしまうと、秘密保持契約に書かれている内容が労働者にとって有益とは言えないため、交わした秘密保持契約が無効となってしまいます。

とはいえ就業規則だけ定め秘密保持契約を交わさないことになってしまうと、万が一派遣労働者が規則違反をしてしまった場合でも、規則に書かれている抽象的な規定でしか懲戒を行えず、具体的な損害賠償までたどり着けないリスクにも繋がります。

 

さてここからは、どのような文面を作成すれば秘密保持契約として有効なのか、秘密保持契約の記載の中で最低限入れていただきたい事項を具体的に確認していきます。(派遣労働者と派遣元の例とします)

 

 

【目的】

本契約は、会社及び従業員間において、従業員が会社から委託された業務を遂行するにあたり、知り得た情報(派遣先含む)の適正な取り扱いについて定めることを目的とする。

→派遣元と派遣労働者において何を目的として締結するのかを記載します。

 

【定義】

本契約において、秘密保持情報とは、次の各号に定めるものとする。

①○○

②□□

③△△

→定義をしっかり決めておかないと、後々トラブルに発展してしまうこともあるため、明確に示す必要があります。具体的かつ範囲を定めて示すようにしましょう。派遣先の秘密情報に関する文言も必須です。

 

【秘密情報の管理】

会社(派遣先含む)が所持品検査を行うときは異議なく応じること。また、会社(派遣先含む)が秘密情報の管理状況について調査を行う場合は調査に応じることとする。

→情報が漏えいされていないかどうか、派遣先側で随時管理しておくことも可能です。

 

【損害賠償義務】

在職中であっても退職後であっても、従業員が本規定に定める事項に違反し、会社(派遣先含む)に損害を与えた場合は、従業員はその損害を賠償しなければならない。

→賠償金額をあらかじめ定めることはできませんが、実際に損害を被った金額を請求することは可能です。

 

現在、秘密保持契約を結んでいたとしても秘密情報の範囲が狭い、内容が不十分であるとトラブルがあった際に対応ができなくなってしまう可能性も考えられます。派遣労働者は通常の労働者と異なり派遣元が雇用、派遣先が指揮命令と三者の関わりのため、対策を強化し、情報漏えいを防がないといけません。今一度秘密保持契約が締結されているかを見直してみましょう。

 

 

 

社会保険労務士法人ユアサイド

綿引 文生(わたびき ふみお)

早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、平成19年に社会保険労務士試験に合格。平成21年社会保険労務士法人ユアサイドに入社。令和3年11月パートナー社員就任。派遣会社を含む幅広い業種の企業をこれまでに100社以上担当。人の強みを生かす企業経営の一助となるとの想いで、日々労務相談や手続きに対応している。

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