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2025年2月5日
年次有給休暇について
昨年12月に令和6年「就労条件総合調査」の結果が公表されました。
「就労条件総合調査」は、民間企業における就労条件の現状を明らかにすることを目的としており、常用労働者30人以上の民営企業で、6,483社を抽出して令和6年1月1日現在の状況等について1月に調査を行い、4,023社から有効回答を得ました。
本調査によれば年次有給休暇の取得状況(令和5年(又は令和4年会計年度))は下記のとおりです。
・年間の年次有給休暇の労働者1人平均付与日数は16.9日
・年間の年次有給休暇の労働者1人平均取得日数は11.0日
・年間の年次有給休暇の労働者1人平均取得率は65.3% 【昭和59年以降過去最高】
厚生労働省が令和7年までの目標としている、年次有給休暇の労働者1人平均取得率70%まであと少しというところまできています。
年次有給休暇の取得は労働者の自由な権利であり、会社は「事業の正常な運営を妨げる場合」でしか時季変更権の行使は認められていません。ただし、時季変更権は単に業務が忙しくなるといった程度の理由では行使できません。また、年次有給休暇を取得したことを理由に賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければなりません。
年次有給休暇についてよくご質問をいただくケースがありますので、以下Q&A形式でご紹介いたします。
Q1、シフト勤務を行っている時給者の方が当該労働日の所定労働時間が決定する前に年次有給休暇の取得申請をしてきました。所定労働時間は日によって3時間から7時間とまちまちなので何時間分支払えばいいのかわかりません。
所定労働時間が毎日同じ場合、また、曜日によって違うという場合にはそれに従って通常支払われる賃金を支払えばいいでしょう。そういった法則性がなく、日によって所定労働時間が全く異なるという上記のような場合にはどのようにして賃金を支払えばいいでしょうか。
【年次有給休暇の賃金は3つの計算方法があります。】
1、通常の所定労働時間働いたものとして計算する方法
2、平均賃金を支払う方法
3、標準報酬日額を支払う方法(※労使協定の締結が必要)
労働時間が一定の場合には通常の賃金を支払う方法が一般的ですが、平均賃金で支払う場合には当該年次有給休暇を取得した日の所定労働時間を特定する必要がないというメリットがあります。ただし、平均賃金で支払う場合には都度、前3か月間の賃金から計算しなければならない点がデメリットといえるでしょう。また、この場合、就業規則等で平均賃金で支払う旨を定めることが適切と考えられます。
Q2、所定労働時間は午前3時間、午後4時間で間に1時間の休憩があります。午前休と午後休の時間が異なるのにどちらも半休(0.5日の有休)として処理されるのはおかしくないですか。
年次有給休暇は原則1日単位で取得できるもので、実は半休に関する法律というものはありません。厚生労働省の通達によると①労働者による半休取得の希望と、時季(取得日)の指定があり、②使用者が労働者の半休取得に同意すれば、本来の1日単位の年次有給休暇取得の阻害にならない範囲で半休を取得させることができることになっています。
なお、半休制度を設けるためにはその取得要件や「半日」の時間帯を就業規則等に定める必要があります。
結論からいうと午前休と午後休の時間が異なる場合でも就業規則にその時間帯を定めていれば、いずれも0.5日の年次有給休暇を取得したこととして差し支えありません。
もちろん、上記の取り扱いに違和感がある場合には所定労働時間の2分の1(所定労働時間7時間の場合には3.5時間)と定めることもできます。
Q3、半休取得時に残業をした場合、どのようなことに注意するべきでしょうか。
本来は半休取得時には残業しないようにしたいところですが、実際には突発的な対応を求められ、残業が発生してしまうことは珍しくありません。
いくつかのケースに分けて考えましょう。
【前提】午前は8時から12時まで、午後は13時から17時までの計8時間が1日の所定労働時間とします。(12時から13時は休憩)
(ケース1)午前半休を取得した労働者が午後の所定労働時間を超えて2時間残業した場合
→労働基準法の最低基準では、割増賃金は実働8時間を超えたところから発生します。上記の場合には午後の所定労働時間4時間と残業時間2時間を合算しても8時間を超えないため割増手当の支給は必要ありません。ただし、所定労働時間を超えた2時間分については法定内残業手当を支払わなければなりません。なお、就業規則等で所定労働時間を超えた労働につき1.25倍の割増賃金を支払うといった定めがある場合にはこれに従います。
(ケース2)午後半休を取得している労働者が午前の所定労働時間を超えて14時まで残業した場合
→ケース1と同様に考えたいところですが、この場合には午後の所定労働時間に労働してしまっているため、半休の取消となります。もっとも、労働者の自主的な判断によるもので、会社の指揮命令がなければ予定通り午後休を取得したことと取り扱っても構いませんが、黙示の指揮命令があったとみなされるケースもあります。半休の取得が認められない場合には14時から17時までは欠勤として取り扱うのが正しい処理となるため、労働者にとっても面白くない話になってしまいます。当然ではありますが、半休取得時には予定通りこれを取らせるということが肝心です。
なお、12時から13時の休憩時間まで1時間の残業をした場合は、午後の所定労働時間にかかっていないことから午後休の取得は有効で、労働基準法上、1時間の法定内残業手当を支払えば足ります。
年次有給休暇についてはケースバイケースで疑問点がでてくることがあります。
都度、疑問を解消し、労働者が安心して年次有給休暇を取得できる環境づくりを目指しましょう。

社会保険労務士法人ユアサイド
綿引 文生(わたびき ふみお)
早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、平成19年に社会保険労務士試験に合格。平成21年社会保険労務士法人ユアサイドに入社。令和3年11月パートナー社員就任。派遣会社を含む幅広い業種の企業をこれまでに100社以上担当。人の強みを生かす企業経営の一助となるとの想いで、日々労務相談や手続きに対応している。