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2022年4月22日

よくある労働時間管理の誤解とは

使用者にとって労働時間を正しく把握し管理することは、労働者を使用して事業を行っていくうえでは避けて通ることができません。

なぜならば、労働基準法をはじめとした労働関係諸法令を守るためには、労働時間を適正に把握していることが前提になっているからです。

わかりやすいところでいえば、残業代を法令に則り不足なく支払うためには、そもそも労働時間の適正な把握・管理が必要になってきます。

一方で、厚生労働省では労働時間について『労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定)』(以下「ガイドライン」)という行政の見解に関する文書を示していましたが、働き方改革の法改正の中で、労働時間の状況を適正に把握する方法について法令による定めがなされました。

そこで、ガイドラインの内容及び適正な把握の方法について定めた労働安全衛生法の規定から、労働時間の把握や管理について、よくある誤解その他注意点について紹介を致します。

 

誤解1.明示的に指示/承認していない残業は労働時間ではない

早出や残業の承認制を導入している会社もあるかと思います。こういった会社で起こり得ることとして、「残業してください」といった上司からの明示的な指示がない、または残業の届け出及び承認がなされていないにもかかわらず行われた残業について、これを一律に労働時間として認めない(つまり残業と認めない)、ということが挙げられます。

こういった場合、確かに社内で決めた残業に関するルールには反していますが、ガイドラインによれば、明示的に残業の中断を命じていなければ「黙示の指示」があったとされ、客観的にみて使用者の指揮命令下にあると評価される限り、労働時間に当たるとしています。

このため、一律に労働時間ではないとする取り扱いは問題である可能性があります。

 

誤解2.労働時間は自己申告させて把握しているから問題ない

ガイドラインによれば、やむを得ない場合を除き、自己申告による管理は望ましくありません。

自己申告による労働時間の管理・把握は、始業終業時刻をついついキリのいい時刻で申告するなど、大まかな申告になりがちなこと、それからこれは良くないことではありますが、使用者または労働者が何らかの理由のため、故意に不正確な労働時間の記録を行いやすいなど、客観的な方法(タイムカードの打刻など)に比べ、あくまで一般的には記録としての信ぴょう性は劣ると言わざるを得ません。

そこでガイドラインや労働安全衛生法においては、労働者の自己申告による労働時間の把握は、客観的な方法によることを原則とし、または法令上義務付けし、自己申告はこれができないやむを得ない場合のみの例外的な方法とされています。

また、やむを得ず自己申告により把握する場合は、次のような運用が求められます。

・ガイドライン等に基づき適正な申告と確認を行うことなどを、管理者と本人に十分説明

・申告と実際に乖離がある恐れがあるときは、確認して必要なら補正する

・実態上は指揮命令下にあり業務を遂行していたにもかかわらず、自己研鑽の時間として申告がなかった時間は労働時間内に補正する

・適正な自己申告の阻害(慣習的に36協定上限までの申告しか認めない等)をしてはならない

 

誤解3.管理監督者はタイムカードがいらない人

いわゆる管理監督者である労働者は、労働基準法の一部(労働時間、休日、休憩)の最低基準の適用を受けません。ガイドラインは、労働基準法のこれらの規定を守るための適正な把握とはどんなものかを示したものです。したがって、管理監督者に対しては、ガイドラインの適用はありません。

しかし、改正された労働安全衛生法においては、長時間労働による労働者の健康障害防止の観点から、労働時間の状況(いかなる時間帯に・どの程度の時間・労務を提供し得る状態にあったか)について、客観的な方法による把握が義務付けられました。

管理監督者も労働者であることに違いはありませんので、改正労働安全衛生法が施行されている現在では、管理監督者といえども、タイムカード等による把握が必要なため、タイムカードがいらない人ではなくなっています。

 

誤解4.テレワークの労働者は、一律にすべて事業場外みなし制の対象としている

テレワークそれ自体は事業場外で行われているものであることから、所定労働時間労働した等とみなす「事業場外労働のみなし労働時間制」(以下「事業場外みなし」)は、テレワーク中の労働時間を管理する方法の一つです。ただし、この制度は「労働時間を算定し難いとき」でなければ適用することができません。テレワーク=労働時間の算定が難しいかというと、必ずしもそうではないというのが現実です。厚生労働省が作成している『テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン』において、どのようなテレワークの仕方が「労働時間を算定し難いとき」となるのかが示されており、簡単にまとめると(1)情報通信機器を指示により常にオンにしておかなくてもよい(常にオンでも応答・返答のタイミングは労働者の任意でよいというのも含まれる)(2)随時指示に従って業務を行っていない、という2点です。これらに該当しない場合は、事業場外みなしの対象とすることができませんので、客観的な方法またはガイドラインに沿った適切な自己申告による方法で労働時間の把握・管理をする必要があります。このことから、テレワーク=一律に事業場外みなし、とするのは、テレワークでの勤務の仕方次第で適切ではない可能性があります。

なお、事業場外みなしであっても労働安全衛生法に定める労働時間の状況の把握は必要ですので注意してください。

 

 

 

社会保険労務士法人ユアサイド

綿引 文生(わたびき ふみお)

早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、平成19年に社会保険労務士試験に合格。平成21年社会保険労務士法人ユアサイドに入社。令和3年11月パートナー社員就任。派遣会社を含む幅広い業種の企業をこれまでに100社以上担当。人の強みを生かす企業経営の一助となるとの想いで、日々労務相談や手続きに対応している。

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