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2023年10月20日

派遣労働者の苦情処理について

派遣労働者は雇用契約を派遣元と締結し、指揮命令を派遣先から受けます。

その特殊な雇用形態のため派遣労働者から苦情が発生した際に、誰がどのように苦情の処理を行うのか、労働者派遣法や派遣元指針・派遣先指針において規定されています。

 

【苦情処理方法の決定】

苦情処理方法については労働者派遣契約に定め(法26条)、派遣労働者には就業条件明示書に明記しなければなりません(法34条)。

具体的には派遣元及び派遣先の苦情申出窓口(部署、役職、氏名、電話番号等)、派遣元と派遣先が連携をとって誠実、迅速に処理する旨等の記載をします。

 

【苦情処理の責任者】

派遣元責任者及び派遣先責任者が苦情の処理を行うことが定められています。

(法第36条、第41条)

 

【管理台帳への記載】

苦情の発生状況及び処理の顛末等を派遣元管理台帳及び派遣先管理台帳に記載しなければなりません。(法第37条第11項、第42条第8項)

 

当然ながら派遣労働者から苦情の申出を受けたことを理由に不利益な取り扱いをすることは禁止されています。

 

これまでも、派遣先における派遣社員の苦情処理の義務はありました。しかし、契約上の雇用主が派遣元であることから、派遣元への苦情申出が多く、また派遣先に苦情の申出があったとしても、派遣先が内容の確認もせずに対応のみを派遣元に依頼するケースが多くありました。このことから派遣先を、派遣労働者を雇用する事業主とみなすことで責任を強化し、誠実かつ主体的に対応することが2021年1月の改正で定められました。

 

また、派遣労働者は派遣先の仲間意識から外され、ハラスメントの被害者にされやすいという問題もあります。労働者派遣法ではセクシュアルハラスメントやパワーハラスメント等に関し特例を設け、雇用管理上の責めは派遣先も負うものとされています(法第47条の2、3、4)。

 

派遣労働者から苦情が出た場合には、派遣元、派遣先ともに密接な連絡調整を行い、誠意をもって遅滞なく、適切、迅速な処理を行うことで苦情の自主的解決を図らなければなりません。

 

 

【自主的解決が困難な場合】

苦情の自主的解決が困難な場合、訴訟を提起することになりますが、派遣労働者にとってはかなり重い負担となります。

現在、派遣労働者がより救済を求めやすくなるよう、都道府県労働局長による紛争解決援助や調停といった裁判外紛争解決手続き(行政ADR)が整備されています。

 

都道府県労働局長は派遣社員と派遣元事業主或いは派遣先事業主との間の紛争に関し、

現に紛争の状態にある当事者の双方又は一方からその解決につき援助を求められた場合には、紛争の当事者に対し、必要な助言、指導又は勧告をすることができます。

当該「助言、指導又は勧告」は紛争の解決を図るため、当該紛争の当事者に対して具体的な解決策を提示し、これを自発的に受け入れることを促す手段として定められているもので、紛争の当事者にこれに従うことを強制するものではありません。なお、紛争解決の援助を求めたことを理由に不利益な取り扱いをすることは禁止されています。

 

【紛争調整委員会による調停】

都道府県労働局長は、これらの紛争の当事者の双方又は一方から調停の申請があった場合には当該紛争解決に必要があると認めるときは、紛争調整委員会に調停を行わせます。

調停を申請しようとする者は、調停申請書を当該調停に係る紛争の当事者である労働者に係る事業所(派遣元或いは派遣先)の所在地を管轄する都道府県労働局長に提出します。

 

調停とは紛争当事者の間に第三者が関与し、当事者の互譲による紛争の現実的な解決を基本とするものであって、行為が法律に抵触するか否か等を判定するものではありません。

行為の結果生じた損害の回復等について現実的な解決策を提示し、当事者の歩み寄りによる当該紛争の解決を図るものとなります。都道府県労働局長の助言、指導又は勧告と同様に調停で出される結論に強制執行権がない点は裁判による判決とは異なります。

 

行政ADRにかかる手数料はありません。また、申請が受け付けられてから結論がでるまでの平均処理期間は2か月程度とされており、多くの費用と時間を要する裁判と比較すると簡易かつ迅速といえます。なお原則公開となる裁判とは異なり、調停は非公開で行われますので労使双方のプライバシーが保護されるのもポイントです。

 

派遣労働者から苦情がでないように環境を整え、派遣元、派遣先双方が密接に連絡をとりながら調整することが大切ではありますが、苦情が出てしまった場合に備えてきちんと準備をすることで早期解決に繋がるようにしておきましょう。

 

 

 

社会保険労務士法人ユアサイド

綿引 文生(わたびき ふみお)

早稲田大学政治経済学部経済学科卒業後、平成19年に社会保険労務士試験に合格。平成21年社会保険労務士法人ユアサイドに入社。令和3年11月パートナー社員就任。派遣会社を含む幅広い業種の企業をこれまでに100社以上担当。人の強みを生かす企業経営の一助となるとの想いで、日々労務相談や手続きに対応している。

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