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10月施行、「同一労働同一賃金」を巡る派遣法などの改正省令・指針 派遣元の「説明対応の実効性」と「評価」がカギ
雇用形態や就業形態にかかわらない公正な待遇確保の取り組み強化に向け、労働者派遣法とパートタイム・有期雇用労働法の関係省令・指針が改正された。「同一労働同一賃金」が導入されて5年が経過したことを受けた見直しで、正社員と有期労働者の不合理な待遇差解消を図る法整備は、もう一段進むことになる。10月1日の施行を目前に控え、派遣元事業者の準備が加速し、行政も指導・監督の対応を進めている。
2020年に法整備された「同一労働同一賃金」。有期労働者の処遇改善は一定の成果をあげたが、厚生労働省は更なる「実効性の確保」に向け、労働政策審議会(労政審)の場で制度運用の点検と見直し議論を進めてきた。今回の改正は、本法自体の改正には踏み切っていないが、単なる運用の見直しという緩やかな変更ではなく、「不合理な待遇格差の防止」と「説明対応の実効性」が強化されたもので、派遣元と派遣先の双方で認識の共有が必要となる。
労政審では、公正な待遇の確保を盛り込んだ「パート・有期法」と「派遣法」について、(1)改正後のパート・有期法と派遣法の「均等・均衡待遇規定」(2)同一労働同一賃金ガイドライン(3)非正規雇用労働者に対する支援(正社員転換等のキャリアアップ、無期雇用フルタイム労働者への同一労働同一賃金ガイドラインの考え方の波及)――を軸に見直しを検討。昨年末に報告書を取りまとめ、今年3月にこれに沿った改正省令・指針案が確定した。
改正は、「パート・有期法」と「派遣法」に共通する事項と、それぞれに規定される内容があり、派遣法でみると派遣先指針に「派遣元からの派遣料金交渉に一切応じない場合は行政指導の対象になる」といった趣旨の記述や、派遣元指針に「職務成果の評価や教育訓練、キャリアコンサルティング、就業機会の確保および提供を総合的に実施する」ことなどが明記された。今年4月から9月末までが事業者に対する周知期間となる。
改正省令・指針の背景と現状、説明義務の重要性
「同一労働同一賃金」の導入で、正社員を100とした場合の有期労働者の賃金水準は、従来までの56%から2025年に67%まで上昇している。ただ、それだけでは足りず、基本給や賞与、退職手当、家族手当、住宅手当などに至るまで、正社員との差をつける場合は、その待遇の性質・目的に照らして職務内容(業務の内容と責任の程度)、職務内容・配置の変更範囲(転勤・昇進・本人の役割の変化などの有無や範囲)などの実態に即して、納得感のある合理的な説明ができるかがカギとなる。指導・監督を担う行政は、この点の運用を注視している。
これに連なる具体的な改正項目としては、雇い入れ時における労働条件明示事項の追加だ。10月以降、企業は労働条件通知書等に「通常の労働者との待遇差について説明を求めることができる」旨と、「申し出先」を明記しなければならない。
実は、この労働条件明示事項の追加が盛り込まれるにあたっては労政審の議論で労使の攻防があった。労働者側が現行法にある「待遇説明義務の『求めがあれば』の削除」を要求したのだ。これに対し、使用者側は、現場の担当者の膨大な負担増に加え、「労働者が必要性を感じたタイミングで説明を求めるからこそ効果がある」として反対した。結果、削除は見送られたが、代わりに省令・告示のレベルで別の強化策が盛り込まれる形で着地した格好だ。
要所となる見直し4点、怠ると行政指導の対象
以上の動きを経て改正された派遣法の省令・指針。見直しのポイントを整理すると、
1,雇い入れ時および派遣時の「説明義務」の強化(省令・告示)
「求めがあれば」の文言削除の“交換条件”として、雇い入れ時の労働条件通知書に「待遇の相違等に関する説明を求めることができる(そうした権利がある)」旨を明記することが新たに義務付けられた。また、実際に労働者から説明を求められた際の説明方法も見直された。現行の「口頭を基本とする」方法から一歩踏み込み、「資料を活用した口頭説明」または「説明事項を全て記載した資料の交付」のいずれかが必須となる。「口頭のみで適当に理解させる」ことは明確に禁止され、事業者には相応のひな形や説明資料の事前整備が求められる。
2, 同一労働同一賃金ガイドラインの更なる明確化(告示)
近年の最高裁判例等を踏まえ、ガイドラインの記載が複数加わった。特に「賞与」の記載充実、「退職手当」「家族手当」「住宅手当」の新規追加が目玉である。正社員と非正規雇用労働者との間でこれらの手当に差異がある場合、待遇の性質や目的に照らして不合理であってはならない旨が明確に示されており、事業者は訴訟リスクを回避するためにも自社の手当基準の再点検が必要となる。
3,「無期雇用フルタイム労働者」への考慮 (指針)
労働契約法に基づく5年ルールや派遣法の3年ルールを経て誕生した「無期雇用」のフルタイム派遣労働者について、法律上の「短時間・有期雇用労働者」には該当しないものの、同一労働同一賃金ガイドラインの趣旨が考慮されるべきである旨が明記された。この「正社員ではないが、派遣法にもパート・有期法にも守られない」層の拡大を見据えた、ルールづくりの「準備」と捉えるべきである。
4,派遣先における「派遣料金交渉への配慮義務」の厳格化(派遣先指針)
行政は本来、民間企業の取引価格に介入しないのが原則であるが、今回の改正では踏み込んだ文言が派遣先指針に盛り込まれた。派遣元からの派遣料金交渉に対して、派遣先が一切応じない(完全無視する)などの行為は「法の趣旨を踏まえた対応とはいえない」とされ、行政指導の対象になり得ることが明文化された。派遣元にとっては、賃上げを意識した料金交渉を進める上で強力な後ろ盾となる 。
改正の真の狙いは「評価」を起点とした待遇改善
政府が推進する「賃上げの構造」を間接雇用である派遣市場においても更に機能させるため、厚生労働省が着目したキーワードは「評価」だ。今回の改正の底流に流れる「思想と理念」と言える。派遣労働者に対して適切な時期に面談し、職務内容や成果、能力を公正に評価し、その結果をフィードバックする。評価によって能力の向上が確認されれば賃上げのきっかけとなり、仮に課題が見つかれば、派遣元が有する教育訓練やキャリアアップ支援の仕組みをフル稼働させて次なるステージへ導く。この一連のサイクルを回すことこそが、今回の指針改正に込められた真の狙いとなる。
しかし、派遣労働者の日々の働きぶりは派遣先の現場でしか見えない。ゆえに、派遣先が職務遂行状況等の情報を正確に把握し、派遣元へ情報提供・共有するという「派遣先と派遣元の連携」が不可欠となる。10月の施行まで残りわずか。人材サービス事業者は単なる形式的な対応にとどまらず、派遣先を巻き込んだ「公正な評価と賃上げのサイクル」の構築へ向け、戦略的な次の一手を打つフェーズを迎えている。
アドバンスニュース主筆
大野 博司(おおの ひろし)
中央大学大学院(MBA)修士。日本新聞協会加盟の地方紙で国会取材兼論説委員を担当。人材ビジネス系月刊誌の編集部長を経て、インターネット報道を主体とする雇用労働の専門媒体株式会社アドバンスニュース(日本インターネット報道協会加盟)の設立に参画し代表取締役(主筆)。日本外国特派員協会会員の労政ジャーナリストとしてHR系雑誌に執筆・寄稿しているほか、ラジオ出演など多様な働き方、地方の労働力、外国人就労などをテーマに解説。政治と省庁、人材ビジネスの最前線で先行取材をこなす。